夕食を抜き、気合いと正露丸で何とか悪体調を克服し、午前2時頃シナイ山登山口に到着する私達。
いるいる、登山客がぞくぞくと集まって来る。白人達は皆なんだか嬉しそうだ。「登るぜ!」という気迫がみなぎっている。さすが聖地。私達とは気合いの入り方が全然違う。
持ち物チェックを受けた後、山のガイドのエジプト人男性2人と合流し、マルワさんに見送られ山道を登り始めた。頂上まで約3時間ほど。上につく頃に朝日を拝めるという寸法だ。
それから歩くこと5分…。
「引き返すんなら今のうちやで。」具合の悪そうな私をみて何度も念を押す姉。
「い、いや、せっかく来たし、大丈夫…。」
己の身体の声を無視し、3時間の山登りをナメていた私の地獄はこれから始まった…。
しかし夜の山道がこんなに暗いとは。何にも見えん!懐中電灯を持って来たから良かったけど、本当はガイドが持っとくべきじゃないのかね?
それにあんたら、歩くスピードが速すぎてついて行けないんだよっ!本当にガイドか!?女性にはもうちょっと思いやりを…。などと思っていたら「あんた、お腹痛くなったら、真っ暗で見えないからここでしたら?(笑)」と姉。ガイドよりヒドイ!
10分後…。
(やばい、まるで通勤電車で貧血起して倒れる寸前…。あと2時間半以上歩くのか?絶対ムリ!)
そんな人の為に、ここではラクダ君が山の途中まで運んでくれるサービスがあるのだ。
しかし、ラクダに乗っているのは太ったおばさん。気のせいか、乗るヤツは根性無しと周りから嘲笑されている気もする。
それに「Ooh~!」とか言ってラクダにしがみついているから結構揺れるのかも。
しかしついにギブアップ。
私はラクダ君の背中で揺られながら満天の星空を見上げ、心の中で絶叫していた。「日本に帰りたいっ!!」
こんなにホームシックになったのは幼稚園の時以来だ。
おしりは痛いし揺れるし、高くてコワイし、ラクダ君は決して愉快な乗り物ではない。でも、今の私は彼に頼るしかない。少しでも楽になるため、私は必死で裸の男性バレエダンサーのことなど、楽しいことを想像した。
どれ位たったろうか。ラクダ使いの兄ちゃんが降りろと合図する。えっ、もう頂上なの?ラクダが途中までしか行かない事をすっかり忘れていた。ここからは歩かなくてはならない。
でも、姉もガイドも、い、いないっっ!どこに行ったん!?はぐれたのか?
パニックに陥って思考停止、地蔵のように固まっている私に、ラクダ使いが金を払えと言ってきた。が、私は金の計算にめちゃめちゃ弱いため、旅行中は金はすべて姉に預け一銭も持っていなかったのだ。小学生か!
「アイ・ハブ・ノー・マネー」力強く言うと、今までヘラヘラ笑っていたラクダ使いの顔がみるみる内に変わり、英語で何やらまくし立て始めた。しかし、そんなの英語の分からない私には馬の耳に念仏。
「ノーマネー!」「マイシスター!」を繰り返す私と、ヒステリーを起しためんどりのように「マネー!」と叫ぶラクダ使い。
世の中にこれ程噛み合わない会話があるだろうか?言葉による意思疎通の難しさと、英語の必要性をつくづく感じた。

ラクダ君は登山口で観光客がへばりそうな要所要所にバッチリ配備されている。どこででも拾えるので心配はご無用。
料金は往復で10ドル。それ以上はビタ一文も出してはならない。
第一、頂上へ至る道でラクダが通れるパートはほんの一部。あっという間に降ろされてしまうのだ。一番キツい所は自分の足で歩くしかない。
だいいち足で登っても思ったほど大したことない距離と傾斜なので、日頃から運動不足の人やハラ具合の悪い人以外は、モーゼの気持ちを想像するためにもギリギリまでラクダは我慢しよう
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