2020年8月18日(火)
現在8月18日午前1時半。台所のテーブルに広げたパソコンでこれを打っている。
明日も会社ゆえ一分一秒でも長く睡眠をとって体力を温存すべきだが、隣の部屋、ヘボピーの横に寝かせているマヤが、ひょっとすると朝を迎えられないかもしれないので、取り急ぎ記録をしたためる。
前回の日記から2週間、無我夢中でマヤのケアをしていた。祝日と盆休みがあったから、このサイトもしっかり更新できると踏んでいたが、介護にエネルギーを使いすぎてパソコンを開く気力すら起こらなかった。
そんな中迎えたお盆4連休の最終日。さすがに簡単な現状報告だけでもしておきたいと、今日ここに挙げた写真をアップロードして、だがそこで睡魔に負けて寝てしまった私。
予定では今夜続きを書くはずだったのだが……またしても状況が変化した。
おおよそのできごとは以下の通りである。
8月4日。朝会社に行く時に「かしこく留守番してるんだよ」と襖の隙間から見たものは、こちらに背を向けて犬ベットの上に横たわるいつもどおりのマヤの姿。
それが夜7時。玄関の前に立つと聞いたことのないような鳴き声が聞こえるではないか。
驚いて襖を開けると、サークルと家具の間の隙間に首をはさんで体を妙な角度にねじり、ぐったりしているマヤがいた。
そこからは無我夢中だった。ユア動物病院の先生にLINEで状況を説明してからタクシーを呼び、犬を抱きかかえて病院に駆け込んだ。車内で逝くかもしれないと思ったから、マヤ、マヤ、お前はいい犬だ、立派な犬だと必死で話しかけた。
夕闇の中に灯った病院のライトの明るさと、ぐにゃぐにゃになった犬をバスタオルにくるんで抱きかかえて病室のドアを開いた時に、先生が準備を整え立っていた光景は忘れることがないだろう。
その後、ヘボピーも来て先生の説明を聞き、検査のために1日のみ入院させることになった。……というのは、翌日の午後から病院はお盆休みで、その間に先生の奥様は手術をお受けになるとのことで、犬を預けることが難しかったのだ。
だから近いかもしれない最期は家で迎えさせようよ、と翌日の昼前にマヤを連れ帰り、ヘボピーと交代で有給をとって連休までの平日をなんとかしのいだ。
別れを覚悟したマヤは、家に帰ると予想以上に元気を取り戻し、手を添えてやるとよろよろ歩くほどだった。ほっとした私たちはマヤに何度も話しかけた。
マヤ、お盆までがんばろうね。お盆休みになったら姉ちゃんたちはずっと家にいるから、三人で楽しく過ごそうね。
だが首を挟んで倒れていた翌々日。またしても驚くことがあった。
慎重に隙間を閉じたサークルの中、立ち上がろうともがいた時にもぐりこんでしまったのだろう。柔らかな犬用ベッドを上半身にかぶったマヤが、布団蒸しの状態で倒れていた。熱中症だ。
よだれとおしっこでべとべとになり、目をカッと見開いてぜいぜいと息をする犬を目にした時、ああ!せっかく拾った命をこんな形で落としてしまうのか!と絶望した。
折しも翌日は6年前に熱中症で他界した末妹カナの命日。カナ!マヤを連れて行かないで!マヤを守ってやって!と祈りながら、冷蔵庫から出してきた冷凍うどん5玉を犬の両わきと両もも、首に配置、そしてユアさんにLINE。先生も大変なところなのに申し訳ない。
間もなく先生から電話があり、その時にはマヤは目覚めてドライフードをぽりぽり食べるくらいに復活していたので、大丈夫でしょうということになり一安心。冷凍うどんに救われた犬。
その後、お盆の4連休に至るまでの間に、私とヘボピーが二人揃った目の前で「男ちっち」を見せてくれたり(これまではどちらか一方が見ては「すごいよ!マヤが男ちっちしたよ!」と報告しあっていたのだ)もう2度と歩けないだろうと思いきや、立ち上がってよろめきつつもどんどん歩いたりと、マヤは私たちを思い切り喜ばせてくれた。
ヘボピーは「幸せをくれるわんこだね!」と言ったがまったくその通りだ。
そういえば昨日はヘボピーと協力して初自宅点滴にも成功した。口元に近づけないと水が飲めないため、留守番中の脱水症状が心配だったのだが、これで安心!と胸をなでおろした。深い安堵感に、自分にとって「マヤの脱水症状」がいかに心の重荷になっていたかを知った。
だというのに、昨夜ヘボピーが退社後すぐに帰宅すると、部屋のあちこちに無茶苦茶に徘徊した痕を残して横たわっていたマヤは、今に至るまでずっと寝たままだ。
現在深夜2時半。一昨日までならこの時間になれば鳴いたりもがいたりして「おしっこしたいです」と人間を起こすのに、昨日夕方6時前から静かに横たわったままのマヤは、もう旅立つ準備をしているのだろうか。
夕食には大好きな鶏ハツを混ぜたドッグフードをびっくりするほどたくさん食べ、数時間前にはヘボピーと私に介助されながら、水もたっぷり飲んだ。しかし生命力は確実に減退したように見える。
ヘボピーは「留守番中にバタバタしすぎて疲れたんちゃう?」と言ってくれるし心からそう願う。朝になればまた立ち上がってよろめき歩き、転んではクンクン鳴いて私たちをうるさがらせてくれるのだと思いたい。
でも、そうじゃなかったら?
さっき寝室を覗いた時には「ベビちゃん」(私たちが赤ん坊の時に使っていた、アヒルがついたベビー用毛布の呼び名だ)に横たえられ、静かに呼吸していた犬のお腹の動きが明日の朝には止まっていたら?
「ちゃあちゃも明日に備えて体力を温存しなきゃ」と言ってヘボピーはマヤの横で眠りについているけれど、私は万一に備えて現状を記しておきたい。
マヤが我が家にやってきて17年。これまでずっと取り続けた、犬としては長い一生の記録の最終ページにあともうすこしだけ余白があることを天に祈る。