2019年12月2日(火)
草木も眠る丑三つ時。
「かおぉおおーん ぎぎぃー」
聞いたことのない恐ろしい音に姉妹同時に飛び起きた。
立ち上がろうとしてよろめく私よりも一足早く寝室から駆け出したヘボピーが、胸に抱いて戻ってきたのは、血走ったまなこで「かおぉおおーん ぎぎぃー」と叫んでいるマヤだった。
「トイレの奥に入り込んで出られなくなってた」とヘボピー。
このところ深夜の徘徊が収まってきたとほっとしていた矢先のできごとに、新たな介護ステージの幕開けか?これを引き金に認知症吠えをするようになっちゃうの?と不安がぞわぞわ這い上がってくる。
興奮に身をよじり、「かおーん かおーん」と鳴く犬をなだめながら、口元に水の容器を差し出してみる。
すると砂漠で乾ききった馬のようにだばだばと音を立ててそれを飲み、ようやく気持ちが静まったのだろう、目をぱちくりさせて鳴きやんだ。
良かった、助かった……。このままだと翌日、マンションの管理組合に匿名の苦情が寄せられていたかもしれない。
水を飲み干してぼんやりしているマヤに「いなばちゅーる チキンミックス味」を差し出すと、正気を取り戻したようにぺちゃぺちゃと舐め、ころんと横になるとあっという間に寝息をたてはじめた。
一体どのくらいの間トイレの壁とにらめっこしていたのだろうか。しばらくの間じいっと考え込んでいたに違いない。
でも、どうにも進退窮まって、こわくてこわくてたまらなくなって、恐怖が爆発した末のあの恐ろしい鳴き声だったのだろう。
認知症が日に日に進行しているマヤ。
もう私たちのことを認識していないかのように映る日もあるけれど、「困った時には仲間を呼べばいい」ということは覚えていてくれているのかな。
眠い頭でそんなことを考えながら、ちゅーるを食べて安らかに眠っている茶色い生きものをそっと撫でてみるのだった。