夜明け前の太陽神殿跡。5月とはいえまだ冷たい空気に震えながら、玉座方面を眺める。
ここからまっすぐに参道がのび、アクエンアテン王や神官がアテンに祈りを捧げていたのだ。
遠くから時折聞こえる鳥の声や風の音を聞きながらここに立つと、三千年以上前に生きた王や神官の姿が、時間の壁のあちら側から浮かび上がってきそうな錯覚に陥った。
エジプトのホテルが作ってくれる弁当には、なぜかもれなく丸ままのリンゴが入っている。
リンゴがゴロンゴロンする弁当パックを抱えながら眺める山の稜線。もうすぐこの中心から「アケト」のヒエログリフが拝めるのだ
ヒマそーにあたりをブラブラする警官たちに囲まれつつ、神殿跡で待つこと約20分。だんだん東の空が白み始めた。
萌えの準備はいいか?!クソ虫野郎ども!サー!イエス!!サー!!!
いよいよ夢にまで見たアケトアテンのご来光!
……おおっと!!萌える!萌えるぞぉ!!
「アケト」のヒエログリフそのものに!!
・・・ってぜんぜんズレとるやんけ!!!
そう、アホな私は太陽が昇る位置は365日動かないと思い込んでいたのだ。
そう言われればアブシンベル神殿でも、神殿の最奥にある神像に朝日が当たるのは、年にたった二度。その日には早朝から観光客がどっと押し寄せると知っていたはずなのに。
まさかこれほどまでにズレるものだとは……夢にも考えやしなかった。
ああああ!ごめんなさいYさんツーリストポリスのみなさん!
まぁ彼らには「アケトのヒエログリフで萌えまくりたい」とまでは伝えてなかったんだけどね。(ヲタすぎる動機でさすがに恥ずかしかったから)
だからこの場所でご来光を拝めただけで、現代のアテン信者のように感動しているように見せかけつつ(※)、いや、じっさいご来光には深く感動したのだが……。
むしろ○○才過ぎてはじめて「太陽が昇る位置は移動する」ことを知った自分の無知っぷりに、私は究極のマイナス感動していた。
※欧米には、古代エジプトの太陽信仰を踏襲するカルト系教団の信者がかなり存在するらしく、彼らはこの場所で太陽を拝んで号泣、ガイドをびびらせるそうだ。
そしてこの数日後には「カルナック大神殿でご来光プレイ」
ご来光ばかり見てなにやってんだとY氏には思われてそうだが、日出ずる国の住人の例にもれず私もご来光が大好きなのだ。
だが、カルナックでも大列柱室の中心線どころか、聖池のはるか向こうあたりから、それもぼんやりしてる間にちゃっかり昇っていた太陽……。
このように「ホルエムヘブ萌え旅行」におけるご来光は、100%恵まれたものではなかった。どうやら「萌え」を求めてご来光を拝もうとする邪な心がラーの怒りに触れたと見える。
ならば次回こそは萌えへの渇望を捨て去り、生まれたての赤ちゃんのような真っ白な心で「王家の谷でご来光プレイ」にチャレンジしたいものだ。
姉の萌えプレイに付き合わされて憔悴しきったヘボピーさんに盟友・芝崎みゆきさんの「古代エジプトうんちく図鑑」を紹介していただきました。
問答無用で面白いから、まだ読んでなければぜったいお勧め!