2019年12月18日(水)

トトロ
♪となりのトトロ トトロ  トトロ トトロ ♪街の中に むかしから住んでる♪

写真フォルダを整理していると懐かしい犬に再会した。
勤め先の近所で塩ビパイプといった管材を商っている会社。そこで飼われていた太った雑種犬。(どうでもいいけど「犬」の点を動かすと「太」になるね)

ぶっといリードでつながれて、たっぷりとした体をゆすり大儀そうに歩く姿をしばしば見かけた。資材の並んだ倉庫に出入りする人たちに頭をなでられて、ポーカーフェイスのまま尻尾を振る姿やらも。

きっと社員さんたちにおやつをもらいすぎているのだろう。あんなに太らせては寿命を縮めるとは思ったけれど、ざわざわした街中で暮らす犬はそれなりに幸せそうに見えた。

それがふと気づくと、表通りの店舗から人通りの少ない社屋の玄関横につながれるようになっていた。
頭をなでてもらっている場面を見ることもなくなった。

ある日、彼の前を通りかかると一枚の張り紙が目に入った。
「最近、噛む事が有るので注意して下さい」
それから「名前 トトロ」と添えられたマジックの文字。

お前、トトロっていうのか。名前のまんまじゃないの!
「トトロ」だからたっぷりと太ったのか、太った仔犬だったから「トトロ」になったのか。どっちが先かは知らないが、名は体を表すだなと笑ってしまった。

その後しばらくして彼の姿は消え、帰宅を急ぐ人々の波に逆らって、主人と並んでよたよた歩く太った犬は私の記憶から遠ざかっていった。

それが今、久しぶりに写真の中の彼に再会した。写真フォルダに太った犬を認めた時、思わず隣席の同僚を呼んでいた。「Iさん!見て見て!なつかしい!」

あわてて立ち上がった勢いで転ぶというハプニングを添えながら、モニタを覗き込んだ同僚は、きっと会社の人間の昔の写真だとでも思っていたのだろう。
「これ覚えてない?トトロ。このあたりをよく散歩してた犬」
「いやあ、覚えてないなあ」
人間の写真ではないことにちょっとがっかりしたように、打って痛む腰をさすりながら同僚は答えた。

会社の近所で飼われていた犬のことなんて、普通は覚えていないものなのだろう。 それでも私は彼を思い出すことができて嬉しかった。

改めて写真を見ると、顔の毛の感じからそこそこの老犬のようだ。噛むようになったのは認知症の影響で、誰かを噛んだから人通りの少ない場所に移されたのかもしれない。
小さな疑問が一つにつながって解き明かされた気がした。

ほこりをかぶった記憶の奥から、ポーカーフェイスでのっそりと立ち上がってきた犬。
トトロと名付けられて人々に頭をなでられていた犬が昔、確かにそこに存在していたことがなんとも知れずいとおしい。
今をさかのぼること、もう20年も前の話である。

近所の犬
ほんとだもん! 本当にトトロいたんだもん! ウソじゃないもん!」
近所の犬