2021年5月12日(水)(&旧サイト2019年10月3日分

桜が散りサツキは緑の葉だけになり、夏がひたひたと近づいてきた。
なんでも東京では先月20日にすでに夏日を迎えたらしい。暑いの苦手な人間としては「そこまであせらんでも……」と軽い怒りすら覚える。
この調子ではやがて我が国からは「春」と「秋」は駆逐されて四季ならぬ二季の国となり、劇団四季も改名を検討する時代が来るのかもしれない。

したたる汗、溜まる洗濯物、腐臭を放つ生ゴミ。疲労、寝不足、熱中症。
夏の嫌いな点ならいくらでも挙げられる。強いて長所を見つけるならば、洗濯物が乾きやすいことくらいだろうか。
暑いとすぐに弱ったカブトムシのようになる私にとって、夏の訪れは憂鬱でしかない。

それでも夏にまつわる心配事が今年はふたつ少ない。それはマヤと電気代だ。

犬族の例に漏れず、マヤも暑いのが大の苦手。ムクムクした毛皮は見る分には癒し系だが、本人はさぞ辛かったことだろう。
人間が「今日は涼しいな」と思う日ですらハァハァと舌を出していたマヤのため、我が家では5月中盤から10月に至るまでエアコン「パパ・ブッダ」がフル稼働。人間の体も財布もヒエヒエにしてくれていた。

けれどもマヤが去った今、そんな心配は不要となった。もともと風通しがよすぎるほどいい我が家は窓さえ開ければ人間にとっては十分涼しくて、エアコンに頼る必要があまりない。今年からは電気代は激減するだろう。

マヤが留守番中に熱中症になるのが怖くて購入した「パパ・ブッダ」。私たちにはこんな高級機は必要がなかった。古いエアコンで十分用をなしていたのだから。

ピカピカの彼は今も古びた部屋でひとり異彩を放っているけれど、これから先、電源を入れられる機会はそうないだろう。

マヤのために迎えられたパパはマヤのために働き、マヤと共に去った。そんな感じがしないでもない。

日立が「インスパイヤーザネクスト!」と送り出してきたこのエアコン、ぜったい「顔」を意識している。
オレンジのランプが仏陀の「びゃくごう」に見えるから、我が家ではこいつに「パパ・ブッダ」と命名。
24万円もした高級機だけあってAI搭載、温度設定は0.5℃刻み。指定した温度は守り抜いてくれる!という信頼感ハンパない。
「留守中に稼働停止してマヤが熱中症で死んでるかも」という20年モノの先代エアコンから買い換えて、我々を不安から解き放ってくれた彼は、父亡き後、男性メンバーを欠くミキ家で「頼れる奴」としてパパ認定されたのであった。

<以下、旧サイト2019年10月3日分です>

秋だというのにまだ暑い。気温のみならず湿気も高い。
日中、太陽にじりじりあぶられながら信号待ちなんかをしていると、どこからともなく真夏の甲子園の声援が聞こえてくる錯覚におちいるし、夜になればなったじっとり湿った空気にまとわりつかれて呼吸が苦しくなってくる。

この気温と湿気には、初めての海外旅行で訪れたクアラルンプールを思い出す。
さあ遊びに行くぞ!とはずむ足どりで夜の街を目指してホテルの玄関を出た瞬間に、むわっとした空気が津波のように押し寄せてきて、自分が異国にいることを実感したものだ。
お父さんお母さん、今やわたくしたちの国ニッポンはマレーシア並みの亜熱帯になりました。

そんな高気温、高湿度のために計りかねるのがエアコンを止めるタイミングである。
エアコンメーカーの信頼に足る情報によれば、電気代を節約するためには「日中は30分以内、夜間は50分以内なら、こまめにオンオフするよりつけっぱなしの方が電気代の節約になる」そうだが、この時間を計るのがむつかしい。

この温度ではつけなくてもいいだろうと思った15分後にヘボピーが「クーラークーラー!」と汗だくで帰宅したり、もう夜中だから自然の風で大丈夫だろう、とOFFにした1分後にマヤが激しくハァハァいいはじめたりと最悪のオンオフを繰り返し、トータルでいえば一日22時間はつけっぱなし……という、お財布にも心臓にも優しくない稼働率。

自然の風を好む私としては、10月にもなればそろそろエアコンにお暇を出したいのだが、そうすることをマヤが許してくれない。
よそのお宅ではどうしているんだろう?と「犬 留守番 エアコン 何月まで?」と検索したところ、「甘い飼い主でもせいぜい9月」という情報をゲットした。

一日22時間の労働と頻繁なオンオフ。
このままでは姉妹が眉間にしわを寄せてひねり出した諭吉24枚で購入した我が家の「パパ・ブッダ」が、購入後早々に過労死しかねない。
ワンチャンすやすや23~24℃設定の部屋で、肉体的にも精神的にもヒヤヒヤが止まらない毎日である。

姉妹からの信頼感が暴走した結果、「パパ」から「神」に昇格してお供え物を捧げられる勢いのパパ・ブッダ。
いつもは穏やかに微笑んで人と犬に冷風と安らぎをもたらしてくれるが、休止状態から目覚める時にはウイングの部分が全開になって「荒ぶる神」の片鱗を見せる。
そういえばプレデターも敵を威嚇する時、こんな風に口がパカーッってなってたよね……。