2021年5月24日(月)

黄色い花
私が「カナの花」と呼んでいる黄色い花。妹が幼い頃、この花に囲まれて撮った写真がとても可愛いかったからだ。これが咲くたびに今は亡き妹の無邪気な微笑みを思い出す。

カナの夢を見た。一緒にご飯でも、と電話をかけている。

父との仲が想像を絶するほど悪かったせいで、お父さんがいた空間で暮らすのは辛い、と父の死後も実家から離れて暮らしていたカナ。
携帯電話を持っていなかったから、連絡を取るには固定電話に頼らざるを得なかった。一度寝込んでしまうと目覚められない彼女を着信音で起こすのは大変な作業。

夢の中、私はまた繋がらないかもと半分諦めながら、繰り返される呼び出し音を聞いていた。

トゥルルルル、トゥルルルル
いくら待っても出てくれない。また寝込んでいるんだろうか。
トゥルルルル、トゥルルルル

もう無理かと電話を切ろうとすると、呼び出し音が途切れてカナの声が聞こえてきた。
「もしもし……」
いつもと変わらない疲れた声。

「あ、よかった!」と意識的に明るいトーンで話す私。「ご飯食べに行かない?」
だが返ってきたのは「うーん。足が痛いねん」と煮え切らない返事。

「足がどうかしたの?」「わからない……。バイトがあるのにどうしよう」と泣きそうな声で訴えた。
かわいそうに、また具合が悪いんだな。この子は昔から体が弱い。
「バイトは何時から?うん……そっかあ、それじゃ急に休まれちゃ困るねえ。でも店には私が電話してあげるから、一緒に病院に行く?」

でも……でも……と決めかねている様子のカナに、心を込めて話しかけた。
「とにかくすぐにそっちに行くから待っていて。病院に行った方がよさそうなら一緒に行こう。大丈夫だよ、心配しないで」

大丈夫だよ。
心配しないで。

そうだ、私はずっとこう言いたかったんだ。
カナが過去、いかに家族を引っ掻き回したかとか何をしても上手くやれないとか、いつ見ても寝ていてやる気がないとか、ギャンブル中毒で行く末が心配とか、そういうこと全部ひっくるめて二の次だったんだ。
「大丈夫だよ」
まずはこの一言からスタートすればよかったのに。

だが、妹に優しい言葉をかけている、これは夢だと分かっている。目覚めて待っているものは小さな容器に収まったカナの遺骨。やり直すことをどれほど切望しようと、全ては遅い。終わってしまった!

そこで目が覚めた。枕は涙で濡れていた。もう二度と「生きたカナ」と話すことができないという厳然たる事実に心がびりびりと引き裂かれて火をつけられたように痛んだ。

カナが世を去ってもうすぐ7年にもなる。だというのにあの衝撃的な別れはすぐ先日のできごとのようだ。

記憶の中で「カナの不在」を繰り返し確認させられるたびに、私の心は7年前、触れようとするとほろほろと崩れた妹の指先を認めたあの瞬間に引き戻される。

それに連れて「カナの分まで未来を見てやろう」という気概は削がれ、日々をうつらうつらと費やしながら、今ここにいる自分は本当に生きているのだろうか?と思わず己の頬を撫でてしまう。

夕焼け雲
夕暮れ時、窓を開けるとこんな光景が広がっていた。まるでヒマラヤ山脈が引越してきたみたい。