2021年6月7日(月)<旧サイト2017年1月12日記述分です>

ティッシュとマヤ

これです!このかみからわるいにおいがします!……と新入りの麻薬捜査犬みたいにキリッとしてるけど、みき・まやちゃんがくわえているのはコカインでもヘロインでもなくて、単なる鼻をかんだあとのティッシュなんだ。
ゴミ箱をほじくりかえして悪さをすることは、「レジャー」と総称されるマヤの重要な活動。ぜんぜんお利口ドッグじゃないんだよ。

それは2017年冒頭。
ゆく年くる年アナウンサーの「明けましておめでとうございますっ!」というはきはきした挨拶によって、除夜の鐘の音のかもし出す厳粛な雰囲気がうち破られた直後のできごとであった。

「あけましておめでとう!」「おめでとう!」「マヤちゃんもおめでとう!今年も元気でお利口でいようね!」とえびす顔の私とヘボピー。
だが、返事の代わりに足元から聞こえてきたのは、「カチャッ……カチャッ……」という不自然な、何者かがレゴをもて遊ぶような音ではないか。

音の正体はテーブルの下で静かに座したマヤが、一心不乱にねぶっているプラスチック製のサムシング。
あちゃーっ!こいつ新年10秒後にまたしてもやらかしおった!

「マヤあぁっ!だめえぇ──っ!」と叫んで取りあげようとすると、かすかに「ううううっ」とうなっただけで、拍子抜けするほどあっさり渡したものは、私のマウスピース。
就寝中に歯を噛みしめる癖があるせいで、口内環境を守るために必ず装着するよう医者に命じられたものである。

テーブルの上に置いていたやつをタチイヌ(テーブル等につかまって後足で立つこと)で盗んだらしい。これ、オーダー品だから壊されたらむっちゃ面倒なんですけど……。

幸いにも発見が早かったおかげで、キバの跡がほんの少しついただけで原型崩壊までには至っていなかった。
ホッ……。なんせ父も母も入れ歯を何度もマヤに破壊されていたからあせったわ。

タチイヌ
TACHI-INU (3RD REMIX) このまま二本足で歩き始めてもおかしくない。

しかし悪行はそれでは終わらず謹賀新年の乱れ打ち。
朝起きて挨拶代わりのタチイヌでかまぼこ盗み食い。お手手でシンクの上のコップをパーン!とはたき落としてドッグフードを盗み食い。

そしてトドメは鶏手羽元盗難──カラスにやるつもりで置いていたちょっと古くなった鳥の手羽元を煮たやつに、ほんの5秒目を離した隙に食らいついていた。

ご存知の通り、火を加えた鶏の骨はタテに割れて食道や胃壁を傷つけるため、犬猫に鶏の骨をやるのはアウト。年明け早々救急わんわん病院に駆け込むことにはなりたくないので、顔色を変えて取りあげようとした。

だが、砂糖と醤油でじっくり煮込んで人間が食べても美味しい鶏の手羽元を、マウスピース並みにあっさり話すはずもなく、「グルルルル……ワグッ!ワグッ!」と地獄の門番のように威嚇しつつ、頑として口を開けようとしない。
やばい、下手したらガブられて人間が救急病院に行くパターンや……。

これはバックアップが不可欠だ!と「マミーっ!マヤが!マヤがあーっ!手袋取って!」と叫んで寝ている妹ヘボピーをたたき起こすと、布団から不機嫌そうに起きてきたねぼけまなこのヘボピー。

テーブルの下で繰り広げられている光景を目にするや、すぐさま状況を理解して手袋を取って手渡してくれた。
二重にしたそれで手羽元のはしをしっかりつかみ、ぜったいに負けられないひっぱりっこ。

その隙に、冷蔵庫から出した肉切れを犬の鼻先に放つヘボピー。
しかし0.2秒で投げられた肉を飲み込むや、0.4秒後には元のポジションに戻る犬。15才の老犬とは思えない瞬発力!……と感心している場合ではない。

「歯磨きガム出して!」「マヤっ!ガムだよ!おいちいよお!」
ヘボピーはマヤの大好物の歯磨きガムを口にぐいぐい押し当てるも、「がるるるる……」のボリュームが上がったのみ。

口の右端には鶏手羽元、左端にはガムを無理矢理ねじ込まれたマヤ。
ほっぺたがリスみたいにふくらんだものすごい顔がおかしくて、思わず手羽元の端をつかむ力がゆるみそうになった。いかんいかん。

もうなすすべはないのか?!
タクシーでわんわん救急病院に駆け込む自分の姿が頭に浮かんだ時、部屋の隅に走ったヘボピーが叫んだ。
「マヤ、これ怖がるから!」

ヘボピーが抱えてきたのは89式5.56mm小銃のモデルガン。自衛隊マニアのヘボがサバゲー用に使用しているものだ。おどかすのは可哀想だけど、背に腹は代えられない。

サバゲーのヘボピーさん
ヘボピーさんの勇姿。この銃口を愛犬に突きつけたのだった。

「マヤっ!こわいこわいやで!」
……だが、銃を見せてもぴくりともしない。果ては銃口を口にねじ込まれても頑として手羽元を放そうとはしない。

昔の戦争映画なら「見上げた根性だ!」と敵味方の間で友情のひとつもはぐくまれそうなシーンだが、犬は敵意を示すのみ。

その瞬間、口の右端には鶏手羽元、左端には銃口をねじ込まれたマヤの真剣な顔を見てブーッと吹き出してしまった。
そして力がゆるんで獲物は犬に奪われ、所要時間5秒でむさぼり食われたのだった。あーあ!

まあ、あわててネットで調べたところ、犬の胃酸は強力なので牛や豚ならいざしらず、鶏の骨くらいなら溶かしてしまうので心配ないよという記述も見られたので、しばらく様子を見ることに。
そうしたところ、犬はピンピンしたまま夜を迎え、腹を下すこともなくいつも通りのとってもいいフンを大量に垂れたのであった。

このようにして「口に銃口を突っ込まれたマヤ」ではじまった爆笑の2017年。今年も多少の悪さはしてもいいから、元気なじぃじぃワンワンでいて欲しいものだ。

必死なマヤ
ドッグフードの量を計ってちょっと目を離したスキにこの通り。ちんまいマメ欲しさにもう、気の毒になるくらい必死である。
プリンとマヤちゃん
プリンの容器を舐めさせてやったら、少しづつ歯に圧を加えて丸ごと持って行こうとしている。彼の辞典には「シェア」という文字は存在しない。
どろぼうマヤ
ゴミ漁りの現場を押さえたぞ!
どろぼうマヤ
ぼく、なーんにもしてませんよ?ととぼけ顔だが内心ドッキドキ。目が泳いでいる。
だが、これ以上責めると逆ギレ必至だから追求はあきらめた。