2021年6月5日(土)<旧サイト2017年10月5日記述分です>

くんかくんか。シンクの上をチェック中。我が家ではこの状態を「タチイヌ」と称する。

愛犬マヤの「食」に対する執着は見上げたものだ。ソフトに表現すれば「健啖家」、はっきり言えば「意地きたない」

意地きたなさレベルは犬種由来のキャラクターによるところもあるそうで、食の細いサルーキやボルゾイに対して、ラブラドールレトリーバー、ビーグル、コッカースパニエルあたりは「意地きたないワンちゃんグランプリ」で上位を独占する犬種らしい。

イングリッシュコッカースパニエルであるマヤの異常な食欲も「盗み食いがひどい」と相談した獣医さんから、「まあ……コッカーだから仕方ないですね」とあっさりした答えが返ってきてからというもの、半分諦めモードである。

だが「お腹がすくのは元気のしるし」と笑ってばかりはいられない。15年近い犬生において、我々はどれほどマヤの意地きたなさに振り回されてきたことだろう!


あれはうんとチビ助の頃。
いつ見ても真面目な顔をして冷蔵庫の前にちょこんと座っているものだから、母と「ここがお気に入りの場所なんだね、かわいいねえ」と微笑み合ったものだが、あれは単に「この箱の中に入っている食べ物はぜんぶぼくのもの!」という意思表示だったとは。

また、我が家にやって来て初めての正月には、家族そろって食べようと父が買っておいた牛肉一キロを盗み食い。
父は怒るどころか「マヤはおもろい犬やなあ」と愉快がっていたけれど、笑ってる場合じゃないよお父さん!すき焼きを食べそびれたのみならず、腹をこわした仔犬を連れて、正月早々獣医に駆け込むのは私なんだからね!

我が家に来た数日後にはすでにこの荒ぶりよう!「引っぱりっこしてるよ、かわいいねぇ(´∇`)」と笑っていたが、今なら分かる。目がマジだと。
これは「ぼくのだからさわっちゃダメ!」の萌芽である。

そんなマヤの「食への執着」は成長しても一ミリたりとも衰えることはなく、むしろガソリンにニトロを加えた勢いでパワーアップ。

帰宅すると表面に無数のひっかき傷のついた空き缶が部屋の真ん中に転がっており、生きたまま埋葬された人が断末魔でつけた爪痕のような傷を目にして「かすかに匂いが残ってるだけでこんなに必死になるなんて……」とちょっと怖くなった頃は、それでもまだまだ可愛いものだった。

玄関のドアを開けるとスズメにやるために置いていた米粒がまき散らされて、そこら一面が結婚式のライスシャワー状態の日もあった。
いくらマヤでも生米は食べないだろうと油断してたらその「まさか」。さすがに全部は食べていなかったものの、一応はテイスティングしたと見える。

父の介護ヘルパーさんからメールが入ったと思ったら「マヤちゃんがマヨネーズにかぶりついて離しません!」
……これは戸棚を勝手に開けて、引っ張り出した未開封のマヨネーズを守ってウーウー唸った事件である。未開封のプラスチック容器でも犬には匂いが判別できることを初めて知った。

またある時は犬の口が届かないようテーブルの真ん中に置いていたハッピーターンを、テーブルによじ登って一気食い。
魔法の粉でハッピーになって、獣医に駆け込んだ私はアンハッピー。

ヘボピーの弁当は盗み食い、カラスが落として道に転がっていた「何か」も拾い食い。(ホントに危ないからこれだけはやめて欲しい!)
テーブルによじ登り、戸棚を開け、ゴミ袋を漁り、道ばたを嗅ぎ回り、今やあらゆる場所がマヤのハンティングエリアなのだ!

以前は人目を盗んでこそこそタチイヌしていたものだが……。今ではカメラを向けようと動じない。

そして先日とうとう「食品」以外のものに手ならぬ口を出したものだから、さしものマヤマニアの私もマヤのことが嫌いになりそうだった。

それはマヤの重要な「レジャー」のひとつである「肉嗅ぎ遊び」──夜の散歩中に肉屋に寄って、店の前に積み重ねられている空き箱をクンクンすること──に行った時のことである。

いつものように「肉嗅ぎ遊び」をしていたマヤが、やおら何か口に含んでくっちゃくっちゃとしがみ始めた。
くんくん~くちゃくちゃまでの所要時間は約2秒。
速い!制止するなんて無理無理むりぃっ!

一体何を拾ったの?!
暗い中、必死で老眼をこらしてみれば、口元からのぞいたのは何やら不審な紙片……。
おぉーっと!血がたっぷり染みこんでどす黒く変色したダンボールの端きれだあ!

さすがにこれはいけない。そんなもん食べちゃ駄目だよお!!と血相を変えて取りあげようとしたものの、せっかく拾ったお宝を素直に引き渡すはずがない。
頑として口を開けようとしないどころか、ウウウウウ……と低くうなって威嚇、私が一瞬ひるんだ隙に取られてなるものか!とゴックンしてしまった。

そういえば何年か前に中国の「ダンボール肉まん」ってのが話題になったよね……。
麒麟の田村も昔ダンボールを食べたと「ホームレス中学生」に書いてたらしいから、ダンボールって食べても大丈夫なのかな……。

名残惜しげに舌なめずりしている犬をおろしながら、私はぐるぐる考えた。
……でもリサイクルした紙が身体にいいはずないよね……。 明日はまた動物病院かな……。有給、取りにくいな……。

そんな心配をよそに、翌朝にはいつも通りのいいフンをモリモリ垂れて一安心。
そして「マヤの意地きたなさはダンボールすら食べるレベル」という事実を、飼育14年半目にして主人の目の前に突きつけたのだった。

犬と暮らすと日々新たな発見がある。そしてマヤはちんまい肉切れを手に入れるため、今日も進化を続けている。
盗み食いのための新たな方法を次々に発見するマヤとの闘いは、まだもうしばらくは続くことだろう。

流し台の隙間に爪を引っかけて、安定感のあるタチイヌ方法を編み出した。ボルダリングかよ。

最新のドロボーテクニックは、洗いカゴの取っ手に鼻先をひっかけて引きずり落とす方法。
……というのは以前、カゴの横に置いていた食べ物の皿が引っかかって一緒に落ちてきたもので、カゴを落とせば食べ物もゲットできると認識したらしい。
そりゃあカゴの中の食器が割れることもありますけどね、あとはおねえちゃんが片づけてくれるから心配するな、問題ない!