2020年5月13日(水)

桜とイングリッシュコッカー
マヤちゃんピンクの雲にのる
桜とイングリッシュコッカー
花の布団からむっくり起きた
イングリッシュコッカー
年をとるとまぶたが下がって目がちっちゃくなるのは犬も人間もおんなじなんだな。
14才3ヶ月。同じ八重桜の下で撮った写真。まだ見えていた目がキラキラしてる。

マヤの老化が急速に進行している。当たり前だ。今月25日がくれば、17年と3ヶ月も生きていることになるのだから。

シャイで毛吹きの悪いみすぼらしい子犬が我が家にやってきて、マヤと名付けられたその時には、この犬と17年近く共に暮らすことになるなんて、いったい誰が予想できただろう。

12才を超えた頃から、妹ヘボピーと「これが最後かもしれないね」と言いながら誕生日のご馳走に英国の旗を立ててやり、夏が近づけば「来年はないかもね」とエアコンのスイッチを入れてやった。
中型犬種ゆえ、いくら頑張ってくれても15才を超えることはないだろう、という漠然としたイメージがあったから。

そんな季節を繰り返しつつ、あっと言う間に17年!
五人の人間の家族のうち三人までもが世を去った後、一番命が短いはずの小さな犬が、よぼよぼになっても生きている。

耳は聞こえず目もほとんど見えず、目覚めている間は何かに憑かれたように、固い棒と化した足を引きずりながらこけつまろびつ円を描く。

トイレの場所も分からず食事は要介助。スプーンで口まで運んでもらい、よだれを垂らしながら飲み込むものは、お湯でふやかしたドッグフード。
幸い食欲はまだあるものの、最盛期に15キロあった体重は8キロにまでなった。吸収能力の衰えで、いくら食べても栄養が身につかないのだ。

筋力の衰えで呼吸する力も弱くなったらしい。肋骨が浮き上がった胸を上下させる時に出す苦しげな呼吸音に、深夜、私たちは驚いて飛び起きる。

白内障でオパールのようになった眼を見開き、衰えた体を引きずって徘徊するマヤ。
数年前までのもっちりと福々しく生命力に溢れた頃の姿は見る影もなく、お世辞にも「美しい」とは言い難い老いた犬。
その姿は唐突に逝ってしまった父の代わりに「老いるとはこういうことなんだよ」と教えてくれているようにも見える。

レントゲンを撮ると「これはかなり痛いはずですね」と診断される股関節不全。お腹の中にできた囊胞は徐々に大きくなっており、腎臓と肝臓に負担をかけている。
口をいつもくちゃくちゃさせているのは、歯周病で口内が炎症を起こしているから。マヤはなんにも言わないけれど、人間なら寝込むほどの辛さかもしれない。

そういえば友人が言っていた。ミキさん、カナさんもあかねさん(3年前に他界した親友)も死んじゃって悲しいでしょ?マヤちゃんはその分自分が頑張ろうと思ってるんだよ。

中古のフェイクファーに包まれたミイラのように痩せてしまった体をさすりつつ、心の中で呼びかける。
マヤ、お前はねえちゃんを悲しませまいとしてこんなに長生きしてくれてるの?でもね、痛かったり辛かったら頑張りすぎなくてもいいんだよ、マヤ、マヤ。

血液検査の結果、慢性疾患に起因すると思われる貧血も判明した。
3年先かもしれないし来月かもしれない別れの日がいつ来るか、誰にも分かりはしないとはいえ、犬としては長い旅の終わりはそう遠くないのだよ、と現実を突きつけられた。

痛むであろう体をひきずって、文句ひとつ言わずに生きているマヤ。「死」の概念なんかには縁もなく、ただ淡々と老いてゆくマヤを見ていると、ぼろぼろの老犬が輝かしく気高い存在に思えてくる。

私の犬で弟で息子で子分のマヤは、同時に生き物としての先生だ。
不甲斐ない人間の生徒にできることは、この痛々しい老いから目を背けず、マヤの一生をしっかりと見届けることだけだ。

インギーの子犬
我が家に来たばかりのマヤ。 生後5ヶ月のちび犬がこれから先、17年近く家族の一員でいるなんて、夢にも思っていなかった。
箱入りマヤ
箱があればひとまず入ってみるのは昔といっしょ🤗
イングリッシュコッカー
これはなんといういきものですか? ムクムクだったこの頃は12キロだった体重も、今や8.1キロ。マヤが日に日に痩せるにつれ、私の心まで磨り減りそうだ。